社会保険労務士金子幸嗣事務所

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年金繰下げの損得勘定〜定年後も働き続けるあなたへ〜

年金の繰下げ受給の損得勘定

今後は年金額の減額を踏まえ、退職後も働き続ける人が増えてくるものと予測されます。統計数値も、そのことを反映しています。本文章では、この現実を踏まえ、年金の繰り下げ受給のノウハウについてまとめてみました。

 

実は年金の繰り下げという手法は、長く自営業を継続する人に有利な制度なのです。

 

まず、65歳時点で基礎年金と厚生年金の両方を繰り下げる場合、特別な手続きは一切不要であり、日本年金機構から送られてくる年金請求書を提出せずにそのまま保管しておくこと、つまりあえて何もしないことが繰下げ待機を成立させるための重要なポイントとなります。

 

しかし、この仕組みには繰下げを希望する専用の申込書といったものが存在しないため、意図的に待機している人と単に手続きを忘れて放置している人の外見的な区別がつきません。これには、いざ受給する際に過去に遡って一括で受け取るという選択肢を残すためという制度上の理由があるものの、利用者にとっては少々不安を覚えるような仕様になっていると言えます。

 

一方で、年金請求書に同封される案内などを用いて国が繰下げ受給を積極的に推奨する背景には、年金財政の短期的な資金繰りを改善させたいという明確な意図が見え隠れします。受給開始を遅らせてもらうことで目先の国庫からの支出を抑えつつ、制度全体としては平均寿命から逆算して生涯の支給総額が大きく変わらないように設計されています。

 

さらに見落としてはならない重要な点として、繰下げによって年金の額面が増加すると、それに連動して税金や社会保険料の負担も重くなるという事実があります。特に、所得区分のランクアップに伴う高額療養費制度の自己負担上限額の引き上げは、医療費がかさみやすい高齢期において非常に大きなリスクとなります。少子高齢化が進む中、この負担のボーダーラインが将来的に引き下げられるとは考えにくく、手取りベースで損得を計算した場合の損益分岐点は、額面で言われている年数よりも大幅に後ずれすることになります。国からすれば、増額して支払った年金の一部を社会保険料として確実に回収できる合理的な仕組みになっているわけです。

 

このように、ある程度の年金収入がある人にとっては繰下げが必ずしも有利とは言えない現実がある一方で、もともとの給付額が少ない人にとっては、繰下げ受給が極めて有効な選択肢となります。

 

例えば、国民年金のみを受給するようなケースにおいては、受給額を最大まで増額させたとしても住民税非課税世帯のボーダーラインを下回る可能性が高くなります。これにより、税金や医療費、介護保険料などの負担が跳ね上がるリスクを回避しながら、増額された年金をそのまま手取りとして受け取ることが可能になります。

 

そして、こうした恩恵を最も受けやすいのが、細々とでも自営業を継続している方々です。自営業には定年がなく、自身のペースで働きながら待機期間中の生活費を賄うことができます。

 

最大の強みは、自営業者の事業所得は給与とはみなされないため、会社員のように働きながら一定以上の収入があると年金がカットされてしまう在職老齢年金制度の影響を全く受けないという点です。事業による収入を得ながら基礎年金を満額まで繰り下げて長生きのリスクに備えるという方法は、制度の特性を最大限に活かした戦略となります。

 

全体を通して見ると、年金の繰下げ受給は表面的な増額率だけで判断すべきものではありません。自身の働き方や本来の年金額、そして将来の社会保険料負担といった隠れたコストまでを総合的に見据え、手取り額をいかに最大化するかを冷静に分析する必要があると言えます。

 

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